(ishida式の趣味に特化した…) マクロ撮影の薀蓄 

【 ishida式のマクロ撮影の機材と使いこなしB 】

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これまでEF-MFTマウントアダプタは使用していたのに、今回が初のCanon製レンズです。

第1回は機材についてが主体、第2回でマクロ機材の使いこなしのテクニックを(ishida式の偏見を交えて)いろいろと述べてきました。
今回はテクニックの話ではありませんが、マクロ撮影機材の追加(また物欲?)に際していろいろ感じるところがあったので、蘊蓄以外の話も交えて解説してみます。

ishida式の本業は生き物(特にクモと昆虫などの節足動物)の撮影なので、そんなに「作品性」を求めて写真を撮っているわけではありません。
とはいっても、「綺麗に撮れる」ことと「快適に撮影できる」ことってフィールドで撮影するにあたってはとても大事ですし、そもそもカメラや撮影機材に関するこだわりは職業病のようなものです。
システムとして画質に対して物理的に不利(ここはishida式では一般に言われる「画質」の定義についての異論もありますが)といわれるマイクロフォーサーズ(M4/3)を使用しているのも、快適かつ歩留まり良く撮影することが主たる目的です

しかし、生き物の撮影が主体の自分にとってはM4/3システムの難点は「マクロレンズの選択肢が少ないこと」だと思っています。
とはいえ、ショートフランジバックの利点を活かして、旧世代の4/3用のレンズも含めてマウントアダプターを介していろいろな別規格のレンズが活用できるのもM4/3の利点の一つではあります。

そこからは、M4/3ネイティブなOLYMPUS 60oマクロを皮切りに、4/3マウントのSIGMA製105oと150mmマクロ、TAMRON 90mmマクロときて、今回新たに導入したのが「Canon EF 180mm F3.5L マクロ」っていうマクロレンズです。

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中古品のため、付属したのは三脚座と前後キャップのみで、ケースやフードは欠品していした。

このレンズの存在を知っている人は少ないと思いますし、Canonユーザーでもたぶんほとんどの人は購入の検討さえしたことはないと思われます。

このレンズは、EFレンズのラインナップの中では「高性能」を謳っている、鏡筒の先端に赤いハチマキの付いた「Lレンズ」というカテゴリーの製品です。
しかし、Canon本家のWebサイトでも説明はとてもあっさり…以下は「CANON CAMERA MUSEUM」から借用した製品紹介です。

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過去、フィルム時代にはNikon製のズームマクロや、MINOLTAの200mmマクロといったものも販売されていましたが、現在ではこのクラスが新品で購入できる等倍撮影可能なマクロレンズとしては最長の焦点距離を持つものと思います。
2020年時点での新品販売価格も18福沢さん程度の非常に高価なレンズですが、もちろんishidaは中古で購入(きっぱり)です…(^^;;;;;;;
しかし、上記スペックを見ても判るように1996年発売と、EFレンズとしては古い世代の製品で「USM(超音波モータ)」は搭載されていますが、「IS(手振れ補正)」は非搭載、その後のモデルチェンジやリニューアルもされていません。
同クラスとしては、TAMRONで同じく180o F3.5という製品がありますが生産終了して在庫販売中、SIGMAは180o F2.8という、さらに高スペックで手振れ補正も搭載された(でも最新の製品ラインナップに対しては0.5世代前)というものが現行製品としてあります。

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何故かレンズ側にセンター指標が無い(^^; それにしても思った以上にデカイ!(が思ったほど太くない?)

当初は激安販売されていたTAMRONの新品を購入しようかと思っていたのですが、ずっと迷っているうちに最安品は品切れとなってしまい、勢い余って(?)購入したのがこのレンズです。
シリアルNo.で製造年月が判るそうで、調べた限りでは2002年製造でしたが、中古品とはいえ買い逃したTAMRONの新品最安品よりはちょっと高かったけど(^^;;;;;;

以下、保有する主力レンズたちとの比較です。

 

TAMRON
90mm F2.8(F004) 

SIGMA
150mm F2.8

Canon
180mm F3.5L

発売時期

2012年

2006年
(ベースは2004年)

1996年

重量

550g

920g

1090g

サイズ

φ76.4×114.5mm

φ79.6×142.4mm

φ82.5×1866mm

最短撮影距離
(レンズ先端より)

30cm
(13.9p)

38cm
(19.5cm)

48cm
(24.5cm)

フィルター径

58mm

72mm

72mm

最大倍率

1:1

1:1

1:1

絞り枚数

9枚(円形)

9枚(円形)

8枚

レンズ構成

11群14枚
(XLD×2/LD×1枚)

12群16枚
(SLD×2枚)

12群14枚
(UD×3枚)

3機種の共通的な機能・性能でいうと、いわゆる低分散・異常分散硝材を使用して色収差を低減している点や、フォーカシングで全長が変化しないインナーフォーカス、超音波モータによるAF駆動・フルタイムマニュアルなどがあります。
また、SIGMA 150mmとCanon 180mmは標準で三脚座を装備しています。
個人的には三脚座が付いているのはうれしい半面、可搬性という面ではデメリットともなりますので、SIGMAのようにレンズをボディに装着したまま着脱できるものが好みです。
Canonのように(手持ちのOLYMPUSの40-150o/F2.8 PROもそうだが)レンズを外した状態でないと着脱できないものはちょっと困ります。
こういうことを書くと、Canonの場合はこの焦点域のマクロ撮影は(手振れ補正が無いため)三脚使用が前提でしょ…という意見があるかもしれませんが、ケースバイケースで着脱できたほうが良いよね。
逆に、150〜180oの場合はこれだけレンズが長いので、三脚撮影の場合は当然のことですがレンズ側に三脚座が無しということは考えられないですよね。

それにしても、三脚座のリングには中央を示す「-」指標があるのに、レンズ側には何も指標が無いのってすごく不親切だと思うんですけど、何故こうなの???

三種とも全て最大撮影倍率は等倍(1:1)が可能なマクロレンズですが、当然ながら焦点距離の違いにより最短撮影距離が異なります。
また、同じ距離で同じ大きさの対象を撮影した場合、当然のことながら焦点距離が長いほうが撮影倍率が大きくなります。

下の画像は、センサー面の指標から74p離れた位置から、絞りF5.6に統一してレンズを交換しながら撮影した体長38oのカジカガエル(のフィギュア)ですが、Canon 180mmとSIGMA 150mmの拡大率と被写界深度の差が思ったよりも大きいですね。
Canon180mmとTAMRON 90mmの差異も、90oが180mmのちょうど1/2かというと、そうでもありません。

実際のレンズの公称焦点距離は無限遠(平行光線が入射している状態)での焦点距離なので、近接撮影時の撮影倍率にはレンズによって差が出る可能性があります。
特にインナーフォーカスのレンズの場合は実焦点距離自体が変化すると聞いたことがあるので、近距離域で実際に撮影してみるとやはりレンズによって近距離撮影の倍率は差異がありそうです。
Canon 180mmの場合は、他のレンズ同様に広義のインナーフォーカス方式ですが、二つのフォーカスレンズ群を異なる軌跡で移動する「インナーフローティング機構」で動作させているというのもウリの一つなので、F値の変動だけでなく焦点距離の変動も抑えられているのかもしれません。

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体長38mmのカジカガエル Canon 180mm Macro F5.6 1/250 ISO200 (補正なし)

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SIGM 150o Macro F5.6 1/640 ISO20
0 (-1.0EV補正)

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TAMRON 90o Macro F5.6 1/400 ISO200 (-1.0EV補正)

生き物の撮影では、立ち入りが制限されている場所だったりすることも多く、相手が警戒心の強いものだったりするとそもそも接近するのが難しいことも多く、180oマクロの撮影倍率の大きさが強力な武器になります。
また、センサー面での撮影倍率が同じなら、センサーサイズの小さなM4/3フォーマットのほうが画像としての見た目の大きさは倍になるのも(被写体を大きく映す目的に対しては)有利な点です。
画質面でも、35oフルサイズ対応のレンズを使う場合は周辺の倍率色収差や歪曲収差の影響の少ない中央部だけを使えるとか、口径食や周辺減光の影響も受けにくいというのも(こじつけですが)有利といえます。
→これって、フルサイズの中央部だけをクロップしているのと同じですけど…(^^;
でも、画素数的にはフルサイズのセンサー中央部だけをクロップしても2000漫画素にはなりません。

下の画像は、フルサイズとM4/3サイズの撮影倍率の差と被写界深度の差が判るように、中央赤枠内がCanon180mmにてF5.6で撮影した画像で、外側はTAMRON 90mmにてF2.8で撮影した画像をちょっと倍率修正して35oフルサイズ相当の画角にして重ねています。

↓↓↓↓結局ここが今回の最重要ポイントです!(^^)↓↓↓↓
とりあえず「遠くから小さな生き物を大きく写したい」という目的にはM4/3とこのレンズの組み合わせはとても適しています。

もちろん、最終的な撮影倍率は等倍(センサー面上で被写体が同じ大きさに投影される)なので、最短撮影距離で撮影した倍率は他のマクロと同じですが、ワーキングディスタンスが長いのは有利ですね。

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Canon 180mm Macro を使ってM4/3で撮った状態(赤枠内)と、模擬的にフルサイズセンサーで撮った場合の画角。

ただ、M4/3の拡大率の大きさと画素ピッチでは見た目上の収差も2倍になってしまうという意味なので、軸上色収差の大きいレンズはかえって色ずれなどが拡大されてしまうことになり、ちょっと残念な結果になってしまうこともあり得ます。
こういった点で、M4/3ネイティブなレンズは「フランジバックの短さ」による設計上の柔軟性とは逆に、解像力や色収差の面ではクライテリアが高くなってしまうため「豆粒センサー向けといえども必ずしも安価ではない」ともいえると思います。

実際、SIGMA 150mmについては、流石にLDレンズを使用して色収差を低減しているためか、顕著な色の滲みなどは見られませんが、M4/3フォーマットで撮影した場合には「解像度は高いがコントラストは低めでやや線が太め」なイメージです。

最新のものに比べれば一世代旧いとはいえ、SIGMA 150mmより設計の新しいTAMRON 90mm(F004)については、解像感も高くてコントラストが高めで発色の良い、ボケの綺麗なレンズだと感じます。
新型が出たおかげで、AF速度やシフトブレ対応などを求めなければ、お値段もこなれていて超おすすめレンズですね(^^)

肝心のCanon 180mmについての感想ですが、開放F値がF3.5というのはやや物足りなさを感じますが、無理していないぶんそれなりにコンパクト(それでも単体重量1s超え)で、開放から十分な解像力を示し、ボケもそこそこ綺麗でコントラストも高く感じます。
それでも、拡大率の大きいM4/3で使うと、ボケ部分にパープルフリンジが顕著に出るケースもありますが、発売時期が1996年ということで、デジタルネイティブ世代ではないレンズであることを思うと特殊で高価なレンズですが素晴らしい光学性能を持ったレンズといえます。

当時は全群繰り出し式のマクロレンズが普通だったと思われる時代でありながら、前述のフローティング機構を用いたフォーカス群の採用なども奢っています。
レンズ繰り出し機構が外部に無いということは、全長が変化しないことで重心移動が無いだけでなく、フォーカスリング以外の可動部が無いため鏡筒の伸縮によってホコリを吸い込むこともないため、フィールドで使用するマクロレンズとしてとても有利な点です。
(実際、購入品も中古なので外観のスレとか三脚座の摩耗や傷などはそれなりにありましたが、光学系にはチリも無くてとてもよい状態だった。)

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「イオウイロハシリグモ」 E-M1U+ Canon 180mm Macro F3.5 1/640 ISO320 (補正なし)

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体長20mmの「ハッチョウトンボ」 E-M1U+ Canon 180mm Macro F5.6 1/250 ISO320 (-0.3EV補正)

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上の画像を700×700pixelで等倍切り出し。

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これは当該レンズの作例ではありませんが、「ハッチョウトンボ」のサイズ感を表す合成写真(^^;

超音波モータによる静粛なAF動作に加えて、フルタイムマニュアル可能、マニュアルフォーカスの感触も「遠くのものをフリクションで動かしている」感が無くて非常に良好です。
(そもそもM4/3ネイティブなレンズはすべて「電子フォーカス(いわゆるフォーカスバイワイヤ)」なので、マニュアルフォーカスの感触は全てNGレベルなんです(^^;)

ついでに言うと、Canon純正レンズって全体的にデザインがいただけない(個人的感想です)と感じていたのですが、このレンズは外観のデザインも意外に格好良く見える(^^;

それでもこのレンズで唯一残念なのは高価なレンズなのに「円形絞りではない」というところです。
背景に水面の反射光などがあると、開放以外では玉ボケが顕著な八角形になります。
八角形だと、隣り合う玉ボケの直線部分が平行になって、見た目が非常にうるさく感じます。
背景が遠景の木漏れ陽のようなものの場合であればボケが大きくなってほとんど気になりませんが、見下ろした水面の反射のような中途半端な距離差だとより顕著に見えます。
M4/3の画素ピッチだと、開放で近接撮影した場合は思ったより軸上色収差が見えてしまうため、できれば1〜2段くらいは絞りたいところなんですけど…。

まずはSIGMA 150mm Macroにて、F5.6で撮影したものがこちら。9枚羽根の円形絞りのため、F5.6でもそれほど「カクカク感」は感じられません。

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E-M1U+ SIGMA 150mm Macro F5.6 1/320 ISO250 (補正なし)

Canon 180mm Macroにて、F5.6で撮影したものがこちらですが、8枚羽根の非円形絞りのため、「カクカク感」がとても目立つ。

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体長20mmの「ハッチョウトンボ」 E-M1U+ Canon 180mm Macro F5.6 1/500 ISO200 (補正なし)

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上の画像を700×700pixelで等倍切り出し。F5.6まで絞っても被写界深度は浅い。

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E-M1U+ Canon 180mm Macro F3.5 1/1250 ISO200 (補正なし)

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700×700pixelで等倍切り出し。アウトフォーカス部に軸上色収差の様なものが見えるが、描写は甘くならない。

これまでネットでCanon 180mmマクロのレビューを探しても言及されているものが非常に少なく、情報に乏しいながらも、kakaku.comではユーザーの評価は非常に高いものばかりです。
しかし、いろいろ検索した作例などを見ると多くは「絞り開放」「花マクロ・前ボケ多用」「せっかく望遠マクロ買ったので、公園で見た虫を撮ってみました」みたいな感じのものが大半で、昆虫などのマニアックな撮影には一部を除いてあまり参考にならないものばかりでした。

もちろん、2020年現在ではCanon製一眼レフユーザーでも新品で購入するなら第一の選択肢は「SIGMA 180mm F2.8 EX DG OS HSM」というのが主流だと思うので、ややオワコン感は否めないですね。
(こんなマニアックでニッチなレンズが今後リニューアルされる可能性はほぼなく、リニューアルするとしても「RFマウント」での発売となるはずですね。)

半逆光でオイカワのフィギュアと背景の木漏れ陽のボケの変化をGIFアニメーションにしてみました。
遠景のボケの大きさから、背景との距離差が大きければよほど絞り込まない限り玉ボケのカクカク感はほとんど気にならないことが判ります。
絞り羽根の枚数が偶数のため光芒は強めに出やすいようで、F8.0よりも絞り込んでいくと胸鰭の先端の光芒がけっこう目立ってきます。

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E-M1U+Canon 180mmにて、F3.5〜F18まで絞りを変化させています。 

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Canon 180mm F3.5 1/320 ISO200 (+1.0EV補正)オイカワの下面に強めのパープルフリンジが出ています。

もちろんボケ味などは絞りの形状だけで決まるものではないので、中途半端な距離の玉ボケが出ないように背景を整理するといった使いこなしでこのレンズのおいしいところが活用できますね

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背景を整理して撮影した「ハッチョウトンボ」。E-M1U+ Canon 180mm Macro F5.6 1/250 ISO200 (補正なし)

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今年上陸した「ニホンアマガエル」。E-M1U+ Canon 180mm Macro F10 1/80 ISO3200 (補正なし)
E-M1Uの強力なボディ内手振れ補正の威力で、手持ち1/80でも手振れはなく、歩留まり良し。

記事とは関係ないですが2020年6月25日付けの報道(発表は24日)で、オリンパスがとうとう赤字事業の映像事業部を分社化のうえで売却、という発表がされましたね。
個人的にはこれまでいろいろ不祥事のあったオリンパスの経営層に対する感情は別として、カメラ事業に対しては大いに愛着や親近感を持っているishida式としては今後も応援したいんですが、今後の動向は注視していこうと思います。(M4/3システムが縮小していくのはとっても困る…)
そもそも会社名とカメラのブランドが同じというのがなかなかネックになりそう。
過去、「PENTAX」のように会社を吸収してブランド名を残したケースや、「KONICAMINOLTA」→「SONY」のような別ブランドへの事業売却の例はあるが、オリンパスという会社自体はそのまま存続するなら、新しい引受先が販売する商品のブランドはナニ…

------- ishida式の心配とマクロ撮影の機材と使いこなし、まだまだ続く(?) -------