蟻によく似た生き物たち

・アリを真似た擬態について 

アリというのは非常に小さいながらも力持ちであるというのはよく知られていますが、「蟻酸」という毒液を持っています。
獲物を捕まえる際に、お尻にある毒腺から出る蟻酸を口に含んで噛み付いたり、種類によっては身に危険が迫ると敵に向かって直接蟻酸を吹きかけるものもいるようです。
また、体は小さくても攻撃性は高く、組織的な行動による数の力で自分より大型の獲物や敵を圧倒してしまいます。

そういうことで、捕食者にとってはアリは厄介な相手であり、サイズのそう違わない相手(特に昆虫や小動物)はアリを避けることが一般的です。

そこで、危険な生き物(と認知されたグループ)であるかのように装うベイツ型の擬態の一種として「アリに擬態した生き物」というものが多く出現しています。

擬態のレベルや行動自体は各種様々ですので、個人的見解ですが代表的なものをご紹介します。

アリに擬態した生き物

アリグモ
クモ網 クモ目 ハエトリグモ科
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アリグモのメスは鋏角が長大ではなく、触肢で口元を隠すと顔までアリに見える。

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ヤサアリグモ(メス)は頭胸部がくびれて白線まで入って「頭部」「胸部」に分かれて見える。

アリグモは、行動も含めて積極的にアリを真似ているものの代表選手でしょうか?
本来は「頭胸部」と「腹部」の2分割にしかなっていないはずのクモの身体ですが、アリグモは頭胸部にくびれがあって、まるで頭部と胸部が分かれているように見えます。
そのうえ、メスや未成熟オスは平たい触肢を鋏角の前で合わせて「アリ顔」まで真似ています。
更には、普通はジャンプして移動することが多いハエトリグモの仲間としては例外的に、全くジャンプしません。
身に危険が迫った時でさえ、ジャンプすることなく「ポトリ」と落下して逃げます。
歩く際も、前脚を持ち上げて振って歩くため、まるでアリの触角ように見えます。

過去にはアリに混じって行動するとか、アリを騙して捕食するかのように言われていましたが、実際には身を守るために、捕食者から嫌われるアリであるかのように見せ掛けているだけのようです。
見た限りではアリに出会ってもさっさと身を翻して逃げてしまいます。
(海外では、身を守るために、わざわざよく似たアリの周辺で行動する種類もあるようです)
個人的にも、あまり視覚で仲間を認識するとは思えないアリを騙すのに、ここまで姿を似せてやる必要は無いのでは?という気がします。

アオオビハエトリ
クモ網 クモ目 ハエトリグモ科
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はっきり言って、それほどアリに似ていないように思えます。
サイズ的にはアリに近いため、ぱっと見の印象はそう見えなくもありませんが…。
動きも独特で、チョコチョコと素早く移動しては前脚を高く振り上げて万歳をする仕草はアリが触角を振っているように見えなくもありません。

このクモの場合は、前脚を触角のように振り上げる仕草自体がアリの行動と関係があるようで、行動も含めてアリに擬態している(アリを騙して仲間のように見せ掛けている)と考えられます。

実際に観察すると、アリが活動している周辺で「挨拶行動」を繰り返し、アリが自分たちの蛹・幼虫を運んでいる時や、生きた獲物を持っているときには素早く横取りしてしまうことがあります。
アミメアリの巣の周辺で多数のアオオビハエトリが活動し、アリが運んでいる幼虫を挨拶しながら(?)奪い取って食べているのも見たことがあります。

また、写真のように自分より体の小さいアリであれば、そのまま捕食してしまうことも多くあります。
逆に、クロヤマアリほどのサイズが相手の場合は、さっさと向きを変えて逃げてしまうのが普通ですが、時には相手が弱っていたりして動きが鈍いと獲物として捕らえてしまいます。

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また、アリのようにアブラムシの甘露をなめる行動も見られます。
アブラムシを捕食するのではなく、アリが触角でアブラムシをつついて甘露を出させるように、このクモは触肢でアブラムシをつついて甘露を出させ、それを触肢で受け取って飲んでいます。

アメイロハエトリ
クモ網 クモ目 ハエトリグモ科
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オビジガバチグモ
クモ網 クモ目 ネコグモ科
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ヒゲナガツヤグモ
クモ網 クモ目 ワシグモ科
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これらのクモたちは、地上徘徊性でサイズ的にもアリに近く、プロポーションも細めで腹柄のくびれが目立つことから、アリのように見えます。
ただ、前の2種(アリグモ、アオオビハエトリ)に比べると、行動も含めて「積極的にアリを真似ている」というイメージはありません。

特にワシグモやネコグモの仲間は主に地上性で、一見すると何となくアリのように見えるものが多くいます。

ツヤアリバチ
昆虫網 ハチ目 コツチバチ科
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ハネナシヒメバチの一種
昆虫網 ハチ目 ヒメバチ科
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トゲムネアリバチ
昆虫網 ハチ目 アリバチ科
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ツヤアリバチやハネナシヒメバチは積極的にアリに真似た姿をしているように見えます。

逆に、名前と裏腹に「アリバチ」の仲間は単に「翅のないハチ」に見えます。
どちらもアリと同じ「ハチ目」に属していますので、翅が無ければアリに見えても当然のような気もしますよね。

どの種類もオスは有翅であったり、近縁種は翅のあるものもいたりします。
地中営巣性の昆虫に寄生する性質から、メスが翅を持たずに地上を歩き回るためにこのような姿をしているということのようです。

ケオビアリモドキ
昆虫網 甲虫目 アリモドキ科
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アリモドキは小型の地上性甲虫の仲間です。
アリは「頭部」「胸部」「腹部」の三つの要素に分かれて見えますが、アリモドキは甲虫であるため、身体を「頭部」「前胸部」「中胸・後胸・腹部」三つの要素に分けてアリのように見せ掛けています。(つまり前胸と中胸の間がくびれていて、中胸から腹部にかけては鞘翅に覆われて「腹部」のように見える)

地上を歩いている姿は「シリアゲアリ」の仲間にそっくりです。

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サイズ的にも同じくらいで、ケオビアリモドキと同じ場所でも見られるテラニシシリアゲアリ。
腹部後端が尖っているのが特徴。

アオバアリガタハネカクシ
昆虫網 甲虫目 ハネカクシ科
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アオバアリガタハネカクシは「アリ形」ハネカクシという割にはアリに似ているようには思えませんが、サイズ的にアリに近い地上性の昆虫です。
前胸と中胸の間がくびれているため、腹の長いアリのように見えなくもないでしょうか?

逆に、こちらの方が強い毒を持っているため、アリガタハネカクシを真似たベイツ型擬態があっても不思議ではない気もします。

コカマキリの幼虫
昆虫網 直翅目 カマキリ科
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幼虫期は相対的に脚が長く、黒い色をしているためアリのように見えます。
不完全変態する昆虫の仲間は、幼虫の時期だけアリに似た姿をしたものがあります。

カメムシの幼虫などにも若齢期のみアリそっくりのものがけっこういるようです。

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こちらは「ホソヘリカメムシ」の幼虫です。