様々な擬態について

人間社会でも、警察官によく似た制服の職業とか、公的機関によく似た名前の団体、有名人によく似たお笑い芸人などのように、擬態の例が少なくありません。

しかし、擬態する側がどれだけ相手によく似ていても、モデルになった側が社会的に認知されていないと擬態の効果はありません。
つまり、擬態される側がどの程度の知名度の高さや権威、または危険性(?)を持っているかによって擬態の効果が大きく違ってきます。

つまり、警察が法の番人として権威を持っていることを認識していなければ、警察官によく似た制服のガードマンを見ても威圧感を覚えないものですし、いくらそっくりでも「無名の役者さんにそっくりなお笑い芸人」が物真似をしても誰も笑いません。

自然界でも、擬態することで生態的に有利な点(捕食されにくい、繁殖しやすい、餌が取りやすいなど)が無ければ成り立ちません。

例えば、「隠蔽型の擬態」の場合、保護色であったり、形が枝や木の葉、岩などにまぎれて捕食者から身を隠したりするものがいる一方で、獲物に気付かれないように待ち伏せしたりする捕食者もいます。
捕食者から身を守ったり、逆に獲物を捕らえるのに有利で、なおかつそのための投資が釣り合えばその種は繁栄できるということになります。

逆に、毒を持つ生き物は積極的に「警戒色」によって自らの危険性をアピールしているものもいます。
ハチなどは、多くの種が黄色と黒の警戒色で自らの存在をアピールし、捕食者から狙われにくくしています。
多くの種類の生き物が「自分たちのグループは有毒である」ことを主張するために、同じような姿や色をもつことを「ミューラー型擬態」と呼びます。

夜中にバイクでブイブイ言わせる集団などの反社会的なグループが同じようなファッションをまとうようなもの?

さらに、自らは危険な生き物ではないのに、毒を持った生き物や危険な生き物に姿や行動を似せているものを「ベイツ型擬態」と呼びます。
ベイツ型擬態の場合、擬態される側の相手(ホスト)が、生態的にどの程度捕食者などの敵に危険性を認知されているかが効果の分かれ目になります。

店員がメイドさんの(だと世間に認知される)服装をしたサービス業などもある意味ベイツ型の擬態の例でしょうか?

例えば、ハチによく似たハナアブなどは鳥類や哺乳類の捕食者には効果がありますが、クモやカマキリなどには全く効果がありません。
ハチを食べようとして刺されたカエルや、テントウムシを食べて酷い味に参った鳥などは、次からは同じパターンの配色を持った獲物には手を出さないといったことが言われています。
逆に、視覚に頼っていないクモや、毒針の存在自体をものともしないカマキリにとってはハチでもアブでも単なる獲物としてしか認識しないため、警戒色は効果がなく、却って保護色や隠蔽型の擬態の方が効果があるということになります。

・保護色や擬態の例

保護色・隠蔽型の擬態

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木肌にそっくりなシャクガの仲間と木の枝にそっくりなシャクガの仲間の幼虫(それぞれは別種)

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木の枝か葉脈に擬態したナナフシモドキの幼虫と地面に溶け込んだイボバッタの幼虫

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保護色で繁みに溶け込むオオカマキリとまるで松葉のような姿で獲物のクモを待つオナガグモ

ミューラー型擬態とベイツ型擬態

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ミューラー型擬態 黄色と黒の縞模様の警戒色をまとった毒を持つハチの仲間

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ハチの仲間を真似たベイツ型擬態 無害なヒメアトスカシバ(鱗翅目)とアシブトハナアブ(ハエ目)

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ミューラー型擬態 黒い胸部と赤っぽい胴体で、体内に毒のあるベニボタルの仲間

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ベニボタルを真似たベイツ型擬態 よく似た配色のアカハネムシとコメツキムシの仲間

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ミューラー型擬態 丸い身体に斑点があり、食べると不味いテントウムシの仲間

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テントウムシを真似たベイツ型擬態 クロボシツツハムシ、テントウノミハムシ(ハムシ科)とアカイロトリノフンダマシ(クモ)

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ミューラー型擬態 体内に毒のあるオバボタル、ムネクリイロボタル(ホタル科)とクビボソジョウカイ(ジョウカイボン科)

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攻撃性の高いアリを真似たベイツ型擬態 アリグモ(クモ)、ケオビアリモドキ(甲虫目)、ツヤアリバチ(ハチ目)