レンズの焦点距離の違いで何が変わるの?

昔、初めて買った一眼レフは標準レンズ50mm/F1.8付きでした。
何年もそれしかレンズは持ってなかったのですが、「もっと広く写したい」とか、「もっと大きく写したい」という欲求が出てきて…
とはいうものの、当時はズームレンズというものは一般的ではなく、広角とか望遠のそれぞれの「交換レンズ」に付け替えるのが当たり前でした。
今では主に標準ズームを付けっぱなし、時々望遠系ズーム(運動会とかね)で使っている方も多いと思います。
ズームが当たり前となった今では、「ズームすると大きく写る」くらいにしか認識していない方もいらっしゃるのでは?
メーカーの売り方も、デジタル「一眼レフ」でさえ「難しいことを考えなくても、うちのカメラを使うと自動的にこんなに綺麗に撮れますよ」みたいな感じが多いかと思います。
「難しいことを考えろ」とは言いませんが、もうちょっと原理を詳しく知っていることでワンランク上の写真が撮れるようになり、失敗も少なくなること請け合いですよ。
思い通りの写真が撮れたときの喜びは、写真を撮る上での楽しみを倍増させます。
あ、いつも前置きが長い(^^;…

@レンズの焦点距離

レンズの焦点距離というのは、平行光線(無限の距離にあるものからの光)がレンズを通って一点に集まった(焦点を結んだ)位置とレンズの主点間の距離のことです。
例えば、あるレンズに平行光が入射し、焦点を結んだ位置との距離が100mmだったら、そのレンズは「焦点距離が100mmのレンズ」ということになります。
主点とか言うと難しい話になりますが、裏表の曲率が同じ1枚のレンズの場合、主点はレンズの中心にあります。
通常の写真用のレンズは構成が複雑ですので、図では単体の凸レンズとして表現しています。

FL_SETSUMEI.JPG

では、被写体が無限遠の距離でない場合はどうかというと、距離が近いほど遠くに焦点を結ぶようになります。
そのため、近くにピントを合わせるためにレンズをフィルム面からどんどん遠くに移動する(レンズを繰り出す)必要があります
最近のレンズでは、レンズ全体を繰り出すのではなく、「インナーフォーカス」という内部のレンズ群のみを動かす方式も多くなっています。(実際には微妙に焦点距離自体を変えてピント位置をずらしている)


A焦点距離の違い
焦点距離が違うことで、写真を撮る上でどんな違いがあるかというと
1.焦点距離が短いほど広い範囲が写る。焦点距離が長いほど狭い範囲が写る。大きく写せる。
2.焦点距離の短いレンズほど小さくて明るい。焦点距離の長いレンズほど大きくて暗い。明るいレンズは更に大きくて値段がど高い(^^;…。
3.焦点距離が短いほど「被写界深度」が深い。焦点距離が長いほど「被写界深度」が浅い。
4.焦点距離が短いほど近くまでピントが合う。焦点距離が長いほど近くにピントが合わせられない。
5.焦点距離が短いほど手ブレしにくい。焦点距離が長いほど手ブレしやすい。

下の図は焦点距離の違いによって、写る像の大きさが違うことを(I田先生の手により)イラスト化したものです。

ZOUKOU_SETSUMEI_S.JPG

像の大きさが違うということは、(元の被写体の明るさが同じなら)当然のことながら倍率が小さい方が単位面積当たりに集まる光の量が多いため明るいということになります。
F値の計算が「レンズの焦点距離を有効径で割った数値」というのも、同じ明るさとするためには焦点距離が長いほど有効径が大きくなければならないという意味からです。有効径の大きい高性能レンズのお値段は推して知るべし…。
(→1.2.の答え)
 
で、ここでまた謎の(?)「被写界深度」という言葉が出てきました。
ピントが合っている状態というのは、上のように「ある点から出た光がレンズを通ってフィルム面上の一点に集まった」状態です。
ピントが合っていない状態というのは、一点に集まっていないわけですから、ボケているわけです。
この「ボケの大きさ」が許容範囲内ならば「ピントが合っている」とみなします。
「ボケの大きさ」を「錯乱円」という言葉で表し、許容範囲一杯の大きさのボケの場合を「最小錯乱円」と呼びます。
つまり「ボケがこの程度までだったら許しちゃおう」という範囲です。
またまたここで I田先生のイラストで説明します。
言葉としては知っていても、いざイメージ化しようとすると難しいんですよぉ…(I田先生談)
 
HISYAKAI_SETSUMEI.JPG
 
なんだかよく見えないんですけど…フィルム面部分の拡大図も用意ですか(^^)
 
HISYAKAI_SETSUMEI_L.JPG
 
つまり、図の@のようにピントの合っている黒いグラスの前後同じ距離にグラスを置いても、近い側(青)のグラスの方が大きくボケるということです。(いわゆる「前ボケ」のほうが大きい)
ボケの範囲を最小錯乱円のサイズに納めるためにはAのような範囲にグラスの位置をもってくる必要があり、その範囲を「被写界深度」と呼びます。
「被写界深度が浅い」というのはピントの合う範囲が狭い、「被写界深度が深い」とはピントの合う範囲が広いという意味で使われます。
ただし同じレンズでも、絞りを絞ると被写界深度は深くなり、開くと浅くなるなど、相対的に変化します。
絞りを絞ると光束の幅が小さくなるため、錯乱円が小さくなる…上の図に絞りが入った状態をイメージしてみてください。
 
レンズの焦点距離が長いと、被写体の距離に対するピント位置の移動が大きいため錯乱円が大きくなり、逆に焦点距離が短いとピント位置の移動が少ないため錯乱円自体も小さくなります。
(→3.の答え)
同じ理由で、焦点距離の長いレンズで近いものにピントを合わせるためにはレンズの繰り出し量が大きくなってしまうため、実際の製品としては難しくなります。(レンズの大きさもさることながら、レンズから遠く射出することで「色収差」も許容レベル以上になってしまう弊害等。)
(→4.の答え)
 
そして、焦点距離の長いレンズの方が撮影倍率が高いことから、その分手ぶれによる像の揺れも拡大されてしまうことと、普通は開放F値も暗いため速いシャッタースピードが切れないことで手ブレし易くなってしまいます。
(→5.の答え)
一般には1/焦点距離〔秒〕のシャッタースピード辺りまでが手ブレしないシャッタースピードと言われますが、人それぞれですね。
私はあまり自信ありません。
(上の「焦点距離」は「35mmカメラ換算」ということになります。)
 
え?実際の撮影テクニックの話がまだ?別のコーナーにて詳しく解説します。