ヒメツチハンミョウ
甲虫目 ツチハンミョウ科 体長25mm前後

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2015年、初めて生きて動いている本種(メス)に出会ったもの。

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「偽死」の状態。右前脚の関節部から毒液が滲み出ている。

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2021年に出会ったもの。腹部が卵でパンパン。

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2024年に見たメス。確かに体がくびれてアリのような体形?(「アリモドキ科」のような体形)

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手当たり次第?目の前にある草を「モグモグ」している感じ。

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これは触覚が異形を呈したオス。

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ずっとメスしか出会っておらず、2024年になって初めてオスに出会った。

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光の加減によってはかなり緑っぽく見える。

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なんか「ワル」そうな顔…(^^)。

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可動域を広げるためか、関節部前後は前胸背板がかなり絞られている。

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甲虫としては珍しく、体をひねって「振り返る」ことが出来る。

「ヒメツチハンミョウ」を含むツチハンミョウの仲間は、名前に「ハンミョウ」と付きますが、いわゆる「ハンミョウ(ナミハンミョウ)」や「ニワハンミョウ」などとは類縁的には全く関係のない昆虫です。
(「ハンミョウ」は「オサムシ科 ハンミョウ亜科」に属しており、「ツチハンミョウ」は「ツチハンミョウ科」に属する)
本種は体内に「カンタリジン(cantharidin)」という毒を持っており、これはジョウカイボン科やカミキリモドキ科、ハネカクシ科などが持つ毒と同じものだそうです。
ishidaの場合もハネカクシとジョウカイボンでは痛い目を見たことがありますが、これらの毒は非常に強いもので、特にツチハンミョウ自体はサイズが大きいため含有量自体が多いことから、かつては漢方薬や毒薬として利用されていたそうです。

本種の場合、甲虫としては「カブトムシ」や「クワガタ」「カミキリムシ」などの大型種を除けばかなり大きい部類の昆虫ですが、本種の場合は頭部・前胸部・中胸部が強くくびれており、腹部は特に長大です。
オスの触角は中間が非常に太くなっており、メスとの見分けは容易です。
翅は退化しているため腹部の前半を申し訳程度に覆っているだけだし、なんといっても全身が群青っぽいメタリックな質感に覆われているのもちょっと異様な雰囲気です。
奥さんに写真を見せたら、「これって大きな女王アリ?」と言っていました(^^;
体が硬い鞘翅で覆われておらず、頚部と前・中胸部のくびれが大きく、飛翔筋が無いため中胸部が細いことも相まって体は柔軟で、胸部と頭部を曲げて「振り返る」ことができるのも甲虫としては珍しい特徴ではないでしょうか。

本種の場合、初めて見たときには当初のイメージとは違って非常に活動的で、なかなか立ち止まらず、植物の新芽などをちょっとかじってはすぐに移動してしまう動きを繰り返していました。
なかなかうまく撮影できないため、行く手をふさぐようにして「ちょっとストップ!」をかけたら、体を丸めて「偽死」の体勢になってしまいました(^^;
そしてしばらくすると、脚部の腿節・脛節間の関節から黄色い液体が滲み出てきました。
これが本種で有名な「カンタリジン」を含む毒液ですね。
因みに昆虫学会所属の先輩によると「死んだふりというよりは、危険を察知すると体が動かなくなるホルモンが出て動けなくなるためで、カミキリなんかそれで枝から落ちて事なきを得ます。本人、いや本虫は決して死んだふりをしてだましてやろうとは思ってないですよ。」とのことです。
もちろん、昆虫の知能では「だましてやろう」という精神自体も無いですよね(^^)
それにしても、毒を持っていることで身の安全が担保されているからか、せわしなく歩き回るわりには外敵(ishida含む)に対する警戒心はあまりないようだし、成虫は菜食主義者ということもあって、何だか当初の印象とは何となく見方が変わりました。

本種は4月〜5月に越冬した成虫が現れて交尾し、春のハナバチの活動期に幼虫が孵化、晩秋に羽化した成虫が現れてそのまま越冬、というう生活サイクルのようです。

ツチハンミョウの仲間は生態的にも変わっており、メスは数千個もの卵を地中に産み付け、孵化した幼虫は植物上に登ってハナバチが訪花するのを待ちます。
訪花したハナバチに乗り移った幼虫は巣まで運ばれ、ハナバチの卵に乗り移ってハナバチの卵や蜜を食べて育つそうです。
また、甲虫なので「完全変態」する昆虫ですが、本種の幼虫は3齢になった状態で「偽蛹」と呼ばれる動かない状態で休眠し、その後の脱皮で再び活動的な姿になるため「過変態」と呼ばれるそうです。(春に繁殖し、秋まで休眠する必要があるからでしょうか?)

もちろん、幼虫が待っているところにハナバチが来てくれるかどうか、更にメスのハナバチに乗り移れるかどうか、首尾よくハナバチの卵に乗り移れるかどうかが幼虫の運命を決めてしまうという、かなり難易度の高い繁殖方法をとっているということになり、成功する確率よりも母数を増やす戦略をとっているため多数の卵を生む必要があるということですね。
しかし、ハナバチやその食料になる花なども含めた総合的な環境が整っていないと本種の存続はなかなか難しいようにも思うし、そもそも本種の成虫は飛べない生き物なのでハナバチの移動する範囲でしか分布を広げられず、オスとメスが歩き回って出会う必要があるということも意外にハードルが高いように思います。
逆に、毎年同じ場所でそれなりに本種を見ることができるということは、この戦略自体が意外にも成功しているということに他ありません。