ラチチュードって何のこと?

○ラチチュード

写真用語で言う「ラチチュード」とは、フィルムなり撮像素子の適正露光に対するプラスマイナスの許容度のことです。
カメラは「適正露光」になるように制御しますので、ISO感度が決まればフィルム面上の露光量は(ほぼ)一定のはずです。しかし、例えば画面内には明るい部分や暗い部分があります。明るさの差がラチチュードの範囲内であれば「真っ白」や「真っ黒」になってしまうことはありません。
つまり、ラチチュードの広いフィルムは広い範囲の明るさの差を表現でき、逆にラチチュードの狭いフィルムは(適正露光の範囲で)表現できる明るさの範囲が狭いということです。
オーディオなどの「ダイナミックレンジ」という考え方に近いものです。

フィルムを例に取ると、一般的には「感度が高いとラチチュードは広く、感度が低いとラチチュードが狭い」と言われています。
では、感度の低いフィルムの利点は何っていう事になりますが、一般的には「粒子が細かい」ということが言えます。(乳剤の粒子を細かくすると、個々の粒子が小さいため感度が低くなってしまう)

「レンズ付きフィルム」は高感度フィルムのラチチュードの広さを利用することで、何の露出制御もないままで薄曇りから晴天までの範囲ならほぼ使えてしまうようになっています。(高感度のため、絞りも小さめにしておくことで被写界深度も深くでき、ピントの合っている(ように見える)範囲も広くなっています)

ラチチュードの広いフィルムの方が良いに決まっているかと言うと、必ずしもそうではないのがミソです(^^)
一般的には「高感度=ラチチュードが広い=粒子が粗い」という図式が成り立ち、ざらざらした仕上げになりがちなのと、暗い部分もわずかな光で発色してしまうためにノイズ感があります。
言ってみれば「ダイナミックレンジは広いがS/N比が低い」というのにも似ています。
また、低感度のポジフィルムでも「白飛び」には弱いのですが、黒つぶれに対してはかなり耐性があり、暗部にはかなりの範囲まで階調が再現されます。
フィルムの場合は「透明」になってしまうとそれ以上の階調が無くなるので、一般的には「ネガはオーバー傾向に強い」「ポジはアンダー傾向に強い」(つまりどちらもフィルムが黒くなる方向に強い)と言われます。

もう一つ、ラチチュードが広いということは「真っ黒や真っ白になりにくい」という意味なので、全体的にコントラストの低いメリハリのない画像になりがちです。
逆に、低感度のリバーサルフィルムを使うと、コントラストの高いメリハリのある画像表現ができます。(もちろんその分、露出決定の精度が求められます)
被写体によっては、例えば雪景色や逆光撮影などでラチチュードの狭いフィルムを使うと必ず真っ白いところや真っ黒いところが現れる事になります。
それを逆手にとって、背景を暗くして主要被写体を引き立たせてやるような表現も可能です。

ラチチュードの違いによる画像の差をイメージしてみるとこんな感じです。
(実際の明暗は対数的な変化なので、もっと広い範囲で変化します)

GRAY.JPG
元の画像がこんなものだとすると

GRAY_HIRO.JPG
ラチチュードの広いフィルムで撮影した画像
白飛び・黒つぶれしにくいってことは、真っ白・真っ黒にならないってこと(少なくともフィルム上は)。
ネガの場合はプリント時に補正されるため判りにくいです。
フィルムスキャンすると「真っ黒・真っ白」がない(濃度差が少ない)ため、スキャンし易いです。

GRAY_SEMA.JPG
ラチチュードの狭いフィルムで撮影した画像
低感度のリバーサルなどはこんな感じ。(実際には暗部にも階調がありますが)
フィルム上で「真っ白〜真っ黒」まで濃度差が大きいため、フィルムスキャン時の再現が難しい。

SINHODAKA_2044.JPG SINHODAKA_2039.JPG
ラチチュードのそこそこ広いネガフィルム(ISO100)の画像をフィルムスキャン

ONTAKE_2117.JPG
ポジフィルム(ISO50)をスキャンしたもの
(実際のフィルム上には暗部の階調はもっとありますが、スキャナのラチチュードが狭いため再現できない)

YATSU_2052.JPG NARUSE_2139.JPG
「適正露出ってどういうこと?」で使った画像ですが…
左:雪面の階調を出すように補正すると背景は暗めになってしまう。 
右:岩肌の質感を出すために補正すると上の空は白飛びする。
どちらもリバーサルフィルム(ベルビア)で撮影なのでラチチュードは狭い。
(更にスキャン時に暗部の階調がつぶれ気味になっています)

デジタルカメラの場合、受光素子の特性や画像処理の効果(実はハード/ソフト含めてこの効果もかなり大きい)を除けば、観念的なラチチュードはほとんど「画素の大きさ(受光面積)の違い」に比例的と思われます。
経験的には、APS−Cサイズのセンサを使用したデジタル一眼レフのラチチュードは低感度ポジフィルムと同程度かやや下というイメージです。
デジタルについては「12bit処理」などと謳っていると、回路や画像処理上は広い範囲での再現性があるようにも見えますし、細かい定義は良くわからない部分が多いですが…。
ついでに言うと、階調性(階調の再現性)については一般的なAPS−Cサイズのセンサを使用したデジタル一眼レフでもフィルムに比べると満足とはいえません。(特に暗部)
※ラチチュードと階調性はかなり緊密な関係にあり、下の説明はラチチュードと階調性を置き換えてもほとんど同じとも考えられます。(ラチチュードが広い≒階調再現性が高い)

撮像素子自体は1/2.5サイズから35mmフルサイズ等様々ありますので、フィルムと違って「高感度=ラチチュードが広い=粒子が粗い」という図式は必ずしも当てはまりません。
ただし、同じ撮像素子のサイズの場合は「高画素数=感度が低い=ラチチュードが狭い=ノイズが多い」という傾向になります。
最近は「高感度」を謳ったコンパクトデジカメが多数ありますが、物理的なダイナミックレンジを広げたと言うよりも、ゲインを上げてもノイズが発生しにくい撮像部と、ノイズが目立たないような画像処理の技術を組み合わせたものではないでしょうか。
最近のコンパクトデジカメの1/1.8インチCCDで1000漫画素越えなんていうのは意味あるんでしょうか?
ファイルサイズは大きく、高画素数だからといって高解像力とは思えないうえに、ラチチュードも狭い携帯電話のカメラみたいな画質では本末転倒です。
レンズ性能が低いのを画像処理でエッジ強調しつつノイズリダクションをかけているのでは、高画素数のメリットはどこにあるんでしょうかという感を覚えます。
さらに、画素が小さいとタダでさえ蓄積できる電荷量が少ない上に、浮遊電子による「熱ノイズ」の影響も受けやすくなり、ますますノイズが多くなる傾向があります。

下のイラストはCCDの画素のイメージをバケツになぞらえたものです。

CCD.JPG
上:画素数は同じで、CCDサイズが大きい場合(デジタル一眼など)
中:画素数は同じで、CCDサイズが小さい場合(コンパクトデジカメ)
下:CCDサイズが小さくて画素数が多いもの(最近の高画素のデジカメ)

AD.JPG
左:サイズの大きい画素の電荷を12bit定規で測っているA/Dコンバー太君
右:サイズの小さい画素の電荷を12bit定規で測っているA/Dコンバー太君
(熱ノイズで揺れたりこぼれたりして測定しにくそうですねぇ)
実際にはA/Dコンバー太君は画素の電荷量を直接測っているわけではありませんが…