偏光フィルターを使ってみよう


 ○偏光フィルター(PLフィルター)って何?-------------------------------------

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        作例1(左)                作例2(右)

以前も出てきたこの写真ですが、偏光フィルター(PLフィルター)を使用することで青空を青く、さらに雪面の反射を抑える様にして撮影しています。風景写真を撮るうえでは避けて通ることのできないものだと思います。
ここで一度、原理と使用方法についておさらいしてみましょう。

偏光フィルター(PLフィルター)は、内部の結晶構造が同一方向に並んでいるため、結晶方向に一致した振幅成分の光しか透過しない性質を持ったフィルターのことです。
身近で同様の機能を使ったものに、液晶ディスプレイがあります。液晶ディスプレイの場合は、液晶に電圧をかけると結晶の配列方向が変わるため、透過するバックライト光は液晶を透過することで「偏光」を受けます。
組み合わされた偏光板と同一方向の時は透明、そうでない時は不透明に見える原理を利用しています。
ここで久々のイラストレーター(自称)のI田先生による説明図が登場します。

PLフィルターの透過
フィルターの格子方向が縦の場合、縦方向の振幅成分しか透過しない。
(振幅方向が45°の場合は縦・横それぞれ1/2の成分と考えれば半分に減衰することになりますね)

通常の太陽光線は全ての方向に振幅を持った状態のはずですから、例えば縦方向の成分しか透過しないフィルターを通した光は横方向の成分を失って、強度は1/2になるはずです。
つまり、偏光フィルターを使用しても風景が「偏光」を受けていなければ単なる「1/2NDフィルター」として働くはずですが、実は外界には多くの「偏光」が存在しているそうです。

受け売りなので詳しい説明は割愛(^^;しますが、例えば青く見える空は「レーリー散乱」という現象(大気の分子による光の散乱)によって強く偏光しているそうです。
また、物体の表面に当たった光が正反射する場合も「境界面反射」によって面に平行な方向に偏光しています。
(詳しく知りたい方はインターネットで検索してみてくださいね。)
「レーリー散乱」によって偏光される偏光度は、光線の方向に対して90°の方向で最大になるという法則があるそうですので、太陽に対して90°の方向が最も強い偏光を受けているということになります。
強く偏光した「青」に対して、同じ向きにフィルターの格子方向を合わせてやれば、他の散乱光成分をカットしたうえで「純粋な青」だけを透過させることができます。(光量自体は周りに比べて少ないため、暗く写ります)

上記のことから一般的に言われる、「PLフィルターの効果は太陽に対して90°の角度で最大になる」という話につながります。
ただし、それは「空の偏光に対して」という条件付きでの話になりますが…。
偏光フィルターによっては、フィルター枠に△マークが付いていて、「このマークを太陽の方向に向けて下さいね」という説明書きがあったりまします。
では、太陽に向かって撮る場合(逆光)や、太陽を背にして撮る(順光)場合はどうなんでしょう?
実は、先ほど述べた「PLフィルターの効果は太陽に対して90°の角度で最大になる」という理屈どおり、効果が少なくなってしまいます。

最初に出てきた写真(作例1)では、影の位置を見て判るとおり「半逆光」状態で、太陽は右上にあります。
右上方向の空が白っぽいのは、広角レンズを使用しているために偏光フィルターの効果の少ない領域(無偏光の散乱光成分が多いため相対的に明るい)が写っているためです。
作例2では完全な逆光状態で、画面左上すぐの場所に太陽があります。
どちらも、空気の澄んだ高山の空なので、散乱光成分自体が少なくて「非常に青い空」に見えますね(^^)。ただし、雪景色なので相対的に空がやや暗く見えますが、偏光フィルターを使って雪面の反射を抑えないと「空が藍色」か「雪面が真っ白」のどちらかになってしまいます。

 ○使用上の注意-----------------------------------------------------------------

@空の状態に対する注意

何度も出てくる「PLフィルターの効果は太陽に対して90°の角度で最大になる」という言葉ですが、季節や時間、使用するレンズの画角によって注意が必要です。
最初の作例1、作例2にあったように、広角レンズを使用すると、空の中に効果の大きい部分と小さい部分が混在し、明るさが不自然になってしまいます。
時間や季節によって、空の状態がどんなふうになっているか、再びI田先生のイラストでご説明します。

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@太陽光線に対して90°(効果最大のライン) A太陽光線の方向

夏の昼間、太陽が中天にある場合、ほぼ地平線に沿って偏光度最大のラインがきていますので、どの方向を写すのにも△マークを上に向けておけば良く、画面内にムラは出にくい。
広角レンズで縦構図にすると、上方に効果の小さい部分がきますが、夏の場合は地平線近くの水蒸気によって低高度の空も効果が小さいことが多いため、意外にムラになりにくいようです(経験的な話ですが)
しかし、朝夕は太陽の高度が低くなるため、特に広角レンズを使う場合は注意が必要です。

PL_WINTER.JPG - 27,840BYTES
@太陽光線に対して90°(効果最大のライン) A太陽光線の方向
ちょっと大袈裟に書きすぎて高緯度地方のようになってしまいましたね…

冬の場合は太陽の高度自体が常に低く、広角レンズを使う場合はどうしても効果の高い部分と低い部分が混在し易いため、フィルターの角度やフレーミングにも気をつかう必要があります。 

A反射光に対する効果

最初の話の中で出て来た「境界面反射」と言う言葉ですが、平たく言うと「反射」ですね。
物体表面にある角度をもって光が入射して反射する場合、角度によって強く「偏光」します。
面に対して平行な振幅成分が強調されるため、偏光フィルターの方向を面と垂直方向に向けてやることで反射光が除去できます。
 ・水面やガラス面に反射する光
 ・車のボディなどに反射する光
 ・地面や雪面、壁面に反射する光
などを除去することで、白っぽい写り込みや極端に強く照らされた面の反射光を抑えることができます。
また、風景撮影などで山や樹木の紅葉などを写した場合に「思ったよりも綺麗に写らないな」と思ったことはありませんか?
実は、植物の葉もけっこう反射率が高くて、表面が反射光で白っぽくなってしまうのが原因です。
ですから、紅葉や山・樹木などを撮影する際にも「本来の色を表現する」ためには偏光フィルターが必需品です。

また、反射を抑えるだけでなく、水面に映った景色などを強調して見せることも可能です。

下の作例は、左が変更フィルター無し、右が偏光フィルター有りです。

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水面の反射を抑えるだけでなく、散乱光で沈んでいる雲を浮き上がらせる効果もあります。でも、水面の描写は平板…

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濡れた砂浜や水面は空の反射のため青っぽく光っています(左)反射を抑えて本来の色合いが出ました(右)。

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水面の写り込みだけでなく、植物の葉のテカリもあって白っぽくなった(左)反射を除去して葉の緑色が締まった(右)。

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濡れた岩は思った以上に反射が強くて白っぽくなります(左)反射を除去して本来の岩の色に(右)。
※すみません、フィルターの内側が曇っていて上のハイライト部周辺が「もやもや」に…要注意です。

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曇天の空が天井・Fガラス・ボンネットに反射している(左)反射を除去して本来の色に(右)。
水平方向の偏光しか除去できてないため、天井(角度によって偏光が弱い)やフェンダー(偏光方向が異なる)は光って見えます。

B空との明暗差を和らげる効果

風景写真の場合、空の明るさに対して山などの近景の明暗差が大きいために
・空を青く写そうとすると近景がアンダーになる。
・近景に露出を合わせると空が白っぽく飛んでしまう。
といったことがよくあります。
偏光フィルターを使用することで空の余分な散乱光成分をカットできるため、全体に調子の合った写真にすることが期待できます。(勿論、光の状態によって効果はまちまちですが)

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空の明るさに引かれて近景はアンダー気味で、さらに散乱光によってもやっとしている(左)空の明るさが抑えられた(右)。
左隅の鉄塔を見ると空が暗くなったことがよく判ります。露出はf5.6・1/200(左)f5.6・1/60(右)

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空に対してクルマはアンダー気味で、手前の地面も暗っぽい(左)空が暗くなったため、相対的に近景が明るい調子になった(右)。

C最後に、これは注意しましょう!

・フィルターの裏表は必ずきれいな状態で使用する。
 上の作例にもありますが、色の濃いフィルターなので内面反射の影響が大きいです。
・シャッター速度が遅くなるため、手ブレに注意する。
 一般的に1〜2段程度は暗くなります。
・ピント合わせに細心の注意を。(ファインダーが暗くなるのと、AFが頼りにならないため)
 オートフォーカス一眼レフの場合、「円偏光フィルター(サーキュラーPLフィルター)」を使いましょう。
 (一眼レフの位相差検知方式の場合は、AF光学系に偏光フィルターを使用しているものが一般的なので)
 個人的には気にせず使っていますが、一眼レフの場合はやはり結構合焦しづらくなります。
・広角レンズに使用する場合は、ステップアップリングを使用して周辺のケラレを防止しましょう。
 イメージサイズの小さい(APS−Cサイズなどの)デジタル一眼にフルサイズ用のレンズを使用する場合は
 特に注意しなくてもいいですね。

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偏光フィルターは構造上、普通のフィルターより厚みがあります。広角レンズに使用する場合はケラレ(画面の四隅にフィルター枠が写り込んでしまう)に注意が必要です。
ステップアップリングを取り付けて、レンズのフィルター枠より口径の大きなフィルターを使用しましょう。
ただし、フードとの併用は出来ないケースがほとんどです。(どちらにしろフードを取り付けると、フィルターを回転させる操作がしにくいですし)
出来ればちょっとした傘でも帽子でも良いので、レンズ先端に直接太陽光が入らないようにしてやるのが好ましいですね。

ちなみに、ステップアップリングとはこんなものです。
フィルターのほうが高価なので、大きめのフィルターを色々なレンズに取り付けて兼用することも出来ます。

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写真はフィルター径77mmのレンズに82mmのフィルターを取り付けるもの。(手前がステップアップリング)